研究・情報発信

【キーワード】

VTuber(バーチャルYouTuber) プライバシー 人格権 発信者情報開示


【事実の概要】

原告の活動等について

原告は、「V」という名前のアバター又はハンドルネームを用いて、「バーチャルYouTuber」(動画配信サイト「Youtube」において、2D又は3DCGなどのアバターを用いた動画等を制作・配信する活動を行う配信者又は当該アバター自体のこと。以下「VTuber」という。)として活動している。「G」は、主としておとぎ話をモチーフとしたVTuberの集団であり、「V」はその一員であった。

本件投稿について

氏名不詳者は、不特定の者が閲覧可能なインターネット上の電子掲示板「5ちゃんねる」内の「G」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)上に、以下の投稿(以下「本件投稿」という。)をした。

≫●●
●●は30歳以上確定してるだろ
逃げるなよ

※「●●」の部分は公開情報上黒塗りされています。


【判決の要旨】

本判決は、以下のとおり述べ、発信者情報の開示を命じた。

・・・によると、本件投稿は、VTuberとして「V」のアバターネーム又はハンドルネームで活動していた原告について、不特定の者が閲覧可能なインターネット上の電子掲示板上で、原告はインターネット上で自らの本名や年齢を明らかにすることを望まず、これらが一般に知られている状況にはなかったにもかかわらず、その本名が「A」であることを、その概ねの年齢とともに明らかにする内容のものであったことが認められる。

そこで検討すると、本名や年齢は個人を特定するための基本的な情報であるところ、インターネット上で本名や年齢をあえて公開せずにハンドルネーム等を用いて活動する者にとって、これらの情報は一般に公開を望まない私生活上の事柄であると解することができるから、本件投稿は原告のプライバシーを侵害するものであったと認められる。

また、被告は、原告の本名や年齢は既知の情報であったとも主張するが、本件全証拠を検討してもそのようには認められない(なお、〈略〉によると、過去に原告がテレビ番組に出演した際、原告の年齢がテロップに表示されたことがあったと認められるものの、これは本件投稿より10年も前の出来事であり、これをもって原告の年齢が一般に知られていたと認めることもできない。)。


【考察】

法律上保護される「プライバシー」とは

「プライバシー」とは、私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利のことをいいます(東京地判昭和39年9月28日判時385号12頁〔宴のあと事件〕)。

プライバシー侵害は、次の場合に成立するとされています。

本判決は、VTuberの演者の立場に立った場合に、その本名や年齢は公開を欲しないであろう私生活上の事実であると認め、プライバシー侵害の成立を認めました。

また、被告は、原告の本名や年齢は既知の情報であったこと、すなわち「一般の人々に未だ知られていない事柄」でないことという上記(iii)の侵害要件を満たさないと主張しましたが、証拠がなかったためその主張は退けられています。

本判決から分かる注意点

インターネットにおいて匿名で活動する人物を特定する本名、年齢その他の情報を公開することはプライバシー侵害となり、損害賠償請求等の対象となることがあります。

SNSのハンドルネーム等が代表的ですが、VTuberを含め、バーチャル空間においてアバターを用い匿名で活動する本人の本名等を暴露することも、同様にプライバシー侵害となるおそれがあるため、安易に公開しないよう注意しなければなりません。

裁判例によれば、もし特定のVTuberの演者の本名・年齢等が一般的に知られている場合には、そのVTuberと結び付けてその本名・年齢等に言及することはプライバシー侵害とならない可能性があるといえます。しかし、そのVTuberの演者の本名・年齢等が現時点において一般に知られているかどうかは、慎重に確認する必要があります。本判決でも、10年前にテレビ番組のテロップで年齢が表示されたという事実は認定されていますが、だからといって現時点においてそれが一般的に知られているとはいえないと評価し、プライバシー侵害を認めています。

VTuberや所属事務所の立場からは、所属契約のみならず、各種業務委託契約やスタジオ利用契約等において、演者のVTuber活動に関与する全ての関係者との間で、VTuberと演者を結び付けることとなり得るあらゆる情報の秘密性をひときわ強く守るために工夫した秘密保持条項を置くなどし、演者のプライバシーがしっかりと保護されるよう対処することが重要です。


関真也法律事務所では、発信者情報開示を含むVTuberに関する誹謗中傷対策その他の権利保護のほか、VTuberの演者、所属事務所、配信プラットフォーム、イラストレーター、3Dモデラーなど、VTuberに関わる様々な方から、著作権・商標権その他の知的財産問題、契約書対応、下請法・フリーランス法対応、景品表示法対応、労働法対応その他多岐にわたる法律相談をお受けしています。

また、VTuberのほか、漫画・アニメ・映画・TV・ゲーム・音楽・芸能・クリエイター等のエンタテインメント、ファッション、XR・メタバース、デジタルツインやNFTその他web3に関する法律問題について、広く知識・経験・ネットワークを有する弁護士が対応いたします。

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《その他参考情報》
XR・メタバースの法律相談:弁護士・関真也の資料集

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

使用言語 日本語・英語