はじめに
米国著作権局審査委員会(the Review Board of the United States Copyright Office)は、2023年9月5日、「Théâtre D’opéra Spatial」と題された作品(後掲;以下「本作品」)の著作権登録を認めないという判断を示しました。
本作品の著作権登録申請者によれば、本作品は、Midjourneyという画像生成AIシステムを使用し、少なくとも624回にわたってテキストプロンプトを入力するなどの作業を経て生成されたものであるとのことです。今回の判断は、それでも人間が創作した作品であると認めなかった点で賛否両論となり、注目を集めています。
米国著作権法上、著作物として保護を受けるためには、それが人間によって創作されたものでなければならないとされています(Human Authorship Requirement)。もっとも、作品の創作に際してAI技術を使用したからといって、その作品の保護が否定されるわけではありません。その作品に対し、人間の創作的な寄与があれば、少なくともその部分が著作物として保護される可能性はあるとされています。
しかし、AIによって生成された素材を含む作品を米国において著作権登録するためには、著作権登録申請の対象からその素材を除外する旨を明示しなければならない場合があります。ところが、本作品の著作権登録申請者は、その明示をしませんでした。これが、本作品の著作権登録が認められなかった大まかな理由です。
以下、本作品がどのように作成されたのか、なぜ著作権登録が認められなかったのか、そして、生成AI作品に関わる者は何に注意すべきなのかを解説します。
本作品はどのように作成されたか
著作権登録申請者の説明によれば、本作品は、次の3つのステップを踏んで作成されたとのことです。
- ステップ①:Midjourneyを使用して画像を生成
- ステップ②:Adobe Photoshopを使用し、美化や欠陥の除去などの調整
- ステップ③:Gigapixel AIを使用して解像度及びサイズを向上(アップスケール)
上記ステップ①に関し、著作権登録申請者は、たとえば次のようなプロンプトを行ったと説明し、「一連のプロンプトを入力し、シーンを調整し、焦点を当てる部分を選択し、画像のトーンを指示」した際に「創作的なインプット」を行ったことから、上記ステップ①の結果として生成された本件の画像(以下「本件Midjourney画像」)について著作権があると主張しました。
- 全体像の説明
- 2つ目の大きな絵の説明
- 全体的なジャンルとカテゴリー
- 作品のトーンを指示する専門的な芸術用語
- どのように生き生きとした作品に見せたいのか
- 色の使い方
- 構図の明確化
- 作品が描くスタイルや時代
- 画像をポップにするための技法
なお、米国著作権局審査委員会は、上記ステップ②の調整それ自体で著作権が認められるか否かを判断するのに十分な情報が提供されなかったこと、また、上記ステップ③のアップスケール作業自体によって著作権が認められるわけではないことを著作権登録申請者が認めていたことから、上記ステップ②及び③に関しては特に考慮せず、上記ステップ①によって生成された本件Midjourney画像にのみ着目して結論を下しています。
なぜ著作権登録は認められなかったのか
米国著作権局審査委員会が本作品について著作権登録を認めなかった理由の1つに、Midjourneyが画像を生成するに際してのテキストプロンプトの位置付け・役割があります。
すなわち、Midjourneyは、「人間のように文法、文章構造又は単語を理解するわけではない」から、「Midjourneyはプロンプトを特定の表現結果を作成するための具体的な指示として解釈しない」と米国著作権局は述べています。
このように、米国著作権局は、Midjourneyが画像を生成するに際してプロンプトを直接的な指示として扱っていないため、プロンプトは生成される画像の内容を制御できているわけではないことから、プロンプトを入力する者は、生成される画像における創作的な表現(文学的、芸術的若しくは音楽的表現又はこれらの選択、配置などの要素)に直接かつ具体的に寄与しているわけではないという考え方に立っていると思われます。現に、米国著作権局は、本作品の著作権登録申請者が600回以上のプロンプトを行ったという点に関し、「ユーザーは満足のいく画像にたどりつくまでに何百回もの反復を試みる必要がある場合がある」にすぎないと述べています。
結論として、米国著作権局審査委員会は、Midjourneyに対してテキストプロンプトを入力するという作業を行ったにすぎない著作権登録申請者は、本件Midjourney画像の著作者であるとはいえないとしています。また、その結果として、本件Midjourney画像は(僅少とは言えない程度に)AIシステムによって生成されたものであるため、これを著作権登録するためには、著作権登録者は、著作権登録申請の対象からその本件Midjourney画像を除外する旨を明示しなければなりませんでした。ところが、著作権登録申請者はこれをしませんでした。
それゆえ、本作品の著作権登録は認められなかったのです。
おわりに
本件における米国著作権局の判断は、Midjourneyが画像を生成するプロセスにおけるプロンプトと生成画像との関係に負うところが大きいといえます。この判断の理由付けによれば、Midjourneyによって生成される画像について著作権が認められるケースはごく限られるとみることもできますが、Midjourney以外の生成AIシステムの場合にも同様に考えられるかは別論です。
また、Midjourneyが生成した画像に対し、手作業によって新たな創作的表現を加えるなどをした場合には、それによって完成される画像について著作権が認められる余地はなお残されています。本作品のようにMidjourneyで生成した画像についても、前述したステップ②又は③のような作業において人間が十分に創作的な寄与をしたことが説明されれば、最終的な作品について著作権による保護が認められることはありうるでしょう。
本作品は、コンテストで優勝した最初のAI生成画像として注目を集めたものでした。このため、米国著作権局は本作品がAI生成画像であることを知っており、これを前提に本作品の著作権登録の可否を判断することができました。もっとも、著作権登録申請者は、申請当初、本作品がAIシステムを使用して生成されたことを開示していなかったとのことです。この観点からも、生成AIに関しては、実効性のある制度的な枠組みの構築について課題があると考えられます。
※この記事は、Yahoo!エキスパートに2023年9月12日付けで掲載した記事を一部更新し、転載したものです。
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