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著作権 キャラクター イラスト 複製 翻案 アイデアと表現の違い

本判決:東京地判平成11年12月21日(平成11年(ワ)第20965号)
参考(控訴審):東京高判平成12年5月30日(平成12年(ネ)第464号)


【はじめに】

キャラクターを描く際に、本などの物であったり、感情などのコンセプトを擬人化することがありますよね(こちらの記事もご参照下さい)。

そのキャラクターの著作権って、どこまで及ぶのでしょうか?

擬人化されたモチーフが共通していれば侵害になってしまうのか、それとも、モチーフが同じでも侵害とならない描き方があるのか・・・。

作り手の現場ではとても大きい問題だと思います。
そこで、参考になる裁判例として上記本判決を紹介し、解説してみたいと思います。


【事案の概要】

原告は、下記「原告漫画」を書籍に掲載した。

被告は、被告が発行した印刷物の裏表紙の内側のページに、下記ページ(そのうち、タウンページと記載されている三体のキャラクターがマンホールから出ている絵及び吹き出しの部分を「被告イラスト」という。)を掲載した。

原告は、被告イラストは原告漫画に類似しており、原告漫画に依拠して製作されたものであるなどと主張して、損害賠償等を請求した。

図1

画像出典:本判決別紙目録より。


【争点】

被告イラストは原告漫画を複製又は翻案したものか?


【裁判所の判断】

以下のとおり複製にも翻案にも当たらないと判断し、請求棄却
※以下の太字強調・加筆は筆者が付加しました。

「原告漫画のキャラクターと被告イラストのキャラクターには、(注:筆者作成の後掲図表「相違点の対比まとめ」参照)のような違いがあるものと認められるから、被告イラストのキャラクターが、原告漫画のキャラクターを複製又は翻案したものであるとは認められない。」

「原告漫画のキャラクターと被告イラストのキャラクターは、本を擬人化したという点は共通しているが、それ自体はアイデアであって、著作権法で保護されるものではない。」

「原告漫画も被告イラストも、キャラクターの目、口、腕等で表情を表現しているということができるが、そのこと自体はアイデアであって、著作権法で保護されるものではなく原告漫画と被告イラストとでは、キャラクターが異なる」。

図2


【ちょっとしたコメント】

他人の著作物を無断で「複製」したり「翻案」したりすると、著作権侵害となる可能性があります。ではどのような場合に「複製」や「翻案」に当たるかというと、他人の著作物の「創作的」な「表現」を利用しているかどうかが大きな基準となります。

ここでは、「表現」を利用したかどうかという点に着目してみましょう。

著作権法には、抽象的なアイデアは保護せず、具体的な表現を保護するという大原則があります。

著作権法の目的には「文化の発展」というものがありますが、これは世の中にある表現を多様化・豊富化するという意味合いがあります。抽象的なアイデアを保護してしまうと、そのアイデアを具現化するもの全てが著作権侵害となり、禁止されてしまうおそれがあることになりますが、それでは「文化の発展」はむしろ妨げられてしまうのでは・・・ということにもなりかねません。

そこで、著作権法は、アイデアを保護せず具体的な表現だけを保護するというルールを採っているわけです。

本件では、原告漫画と被告イラストは、そのアイデアしか共通しておらず、具体的な表現は異なっていたため(前掲図表参照)、著作権侵害が認められませんでした。

本を擬人化したこと自体に著作権が認められた場合、他の人は本を擬人化したあらゆるイラスト等を作成・利用することができなくなります(例外もありますが、ここでは省略します。)。しかし、本を擬人化する具体的な表現は、原告漫画のキャラクター以外にもたくさんあり得るでしょう。だとすれば、擬人化すること自体に独占権を認めるわけにはいきませんね。本を擬人化した色々な表現が世の中に登場し人々に享受されることが、「文化の発展」という著作権法の目的に適います。裁判所は、このことを「アイデア」と表現し、保護を否定したわけです。

また、本判決では、目、口、腕等でキャラクターの表情を表現するという手法も、「アイデア」であるとされています。顔や体の動きを使って感情等を表現することは誰もが用いることのできる表現手法というべきで、著作権法で保護されるのは、あくまで、顔や体の動きを具体的にどのように描いてどのような感情を表現したかという具体的な表現のみであるということです。

起承転結のストーリーについても同様であろうと考えられます。起承転結があるというレベルで共通しているからといって著作権侵害が認められてしまっては、多くの作品が世の中からなくなってしまいますので、そこまで広い独占権を認めるわけにはいかないでしょう。この点、原告は以下のように主張しましたが、裁判所は、仮に被告イラストに何らかのストーリーがあるとしても、「そのストーリーは、原告漫画とは異なっている」としており、起承転結があるという抽象的なアイデアではなく、具体的なストーリーの相違に着目して著作権侵害を否定しています。

起承転結・ストーリーに関する原告の主張
「原告漫画は、本を擬人化したキャラクターによって、起承転結のストーリーを表現したものである。原告漫画の、一段目の左の枠は、口を縦長にした古書が買われてきたという『起』を、一段目の右の枠は、右古書が、他の本に騒がれ苛められても沈黙している『承』を、二段目の左枠及び中枠は、右古書が泣きながら、苛められながらも、卒論を書いている『転』を、別紙目録一の最後の枠は、卒論が出来上がった『結』を表している。」
「被告イラストにおいては、三体のキャラクターが道路のマンホールから飛び出ようとして、顔や手等を出し、左端のキャラクターが口を開け『僕らに知らない店はない。』と左手を上げている。また、中央のキャラクターは、口を閉じ、両手を道路に置き、タウンページを誇示している。右端のキャラクターは、左手を道路に置き右手を上げ眉毛をつけ、通行人に手を振っている。』『このマンホールから出た所が『起』であり、『僕らに知らない店はない。』が『承』であり、『転』は、タウンページの利用者への販売促進である。」
(以上、本判決より引用)

いかがでしたか?

どこまでが保護されないアイデアで、どこからが保護される具体的な表現なのかという目で見ると、「キャラクターってどれくらい似てると著作権侵害なの?」という疑問に対する答えが何となくイメージできるようになるかもしれません。

もっとも、アイデアと表現の区別というのはとても難しい場合があります。この「裁判例から見る キャラクター・イラスト・アバターの知的財産保護シリーズ」では、キャラクターなどの切り口でこの問題を探っていく記事を書いていこうと思っていますので、ぜひご覧下さいね!

※この記事は、関真也弁護士のnoteに2020年10月14日付けで掲載した記事を一部更新し、転載したものです。


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この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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