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商標 3条1項3号 4条1項16号 バーチャルリアリティ VR XR メタバース 審決 特許庁


【事案の概要】

出願人は、平成30年5月14日、下記の本願商標(標準文字/商願2018-62237)を、下記の指定商品・役務について商標登録出願しました。

本願商標

指定商品・役務

第9類「電気通信機械器具の部品及び附属品,コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,バーチャルリアリティ用ヘッドセット,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,光学機械器具,スマートフォン用のカバー,業務用テレビゲーム機用プログラム,写真機械器具,電気通信機械器具,電子出版物,電子応用機械器具及びその部品,電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知機・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。),電子計算機用プログラム,家庭用テレビゲーム機用プログラム,コンピュータ用モニター,電子看板,記録済みCD-ROM」

第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),電子出版物の提供,セミナーの企画・運営又は開催,教育又は娯楽に関する競技会の企画・運営,オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないものに限る。),書籍の制作」

原査定

特許庁審査官は、「本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当し,前記商品又は役務以外の商品又は役務に使用するときは,商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがあるから,同法第4条第1項第16号に該当する」と判断し、本願を拒絶しました。


【本審決の判断】

本審決は以下のとおり述べて原査定を取り消し、「本願商標は、登録すべきものとする」と結論付けました。

本願商標は,「二次元VR」の文字からなるところ,その構成中,「二次元」の文字は,「次元の数が二つであること。二つの座標で表される平面的な広がり。」等の意味を有する語(「広辞苑 第7版」株式会社岩波書店)であり,「VR」の文字は,「仮想現実感。」等の意味を有する「virtual reality(バーチャルリアリティー)」の語の略語(「コンサイスカタカナ語辞典 第4版」株式会社三省堂)であって,・・・当該文字から直ちに商品の品質又は役務の質を具体的かつ直接的に表したものと理解,認識させるとはいい難いものである。

また,当審において職権をもって調査するも,本願の指定商品又は指定役務を取り扱う業界において,「二次元VR」の文字が,具体的な商品の品質又は役務の質を表示するものとして,取引上普通に使用されている事実は発見できず,さらに,本願商標に接する取引者,需要者が,当該文字を商品の品質又は役務の質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。

そうすると,本願商標は,その構成全体をもって特定の語義を有することのない一種の造語として認識されるとみるのが自然である。

してみれば,本願商標は,商品の品質又は役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず,自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであり,かつ,商品の品質又は役務の質について誤認を生ずるおそれもないというべきである。

したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとはいえないから,これを理由として本願を拒絶した原査定は,取消しを免れない。

その他,本願について拒絶の理由を発見しない。


【考察】

商標法3条1項3号によれば、次の商標は、商標登録を受けることができません。

その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

また、同法4条1項16号によれば、次の商標は、商標登録を受けることができません。

商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

原査定と本審決とで結論が変わった大きなポイントは、「二次元」の語の意味をどう認定したかにあると考えられます。

原査定は、「二次元」の文字につき、「漫画・アニメ・ゲーム。また、そのキャラクター。転じて漫画・アニメなどの架空の世界。」を意味する語であるとし、本審決よりも限定した意味に捉えていました。その上で、原査定は、「本願商標は構成全体として『漫画・アニメなどの架空の世界の仮想現実』ほどの意味合いを容易に理解させるものである」としていました。この原査定の認定をもとにすると、アプリ、ゲーム、映像等のコンテンツに関係する本願商標の指定商品・役務との関係では、本願商標は、「漫画・アニメ・ゲームなどの架空の世界の仮想現実を体験することができる商品又は役務」というように、当該指定商品・役務の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章からなる商標であるという判断に結び付きます。このように、商品・役務の内容を説明する意味合いしかない文字は、その商品・役務を提供する者であれば誰でも使用したいものであるために公益上独占に適さず、また、誰が提供する商品・役務であるかを識別する目印(出所識別標識)として機能しないため、商標登録ができないとされているのです。

これに対し、本審決は、「二次元」の文字の意味を、「次元の数が二つであること。二つの座標で表される平面的な広がり。」等と広く捉えました。これにより、「二次元VR」という文字は、原査定の認定とは異なり、商品・役務の特徴を具体的・直接的に表示するものとは言えなくなります。結果、本審決は、業界における取引の実情を考慮の上、「二次元VR」の文字は全体として特定の語義を有しない造語であり、出所識別標識として機能すると判断したのです。

このように、ある商標が登録できるかどうかは、その商標の辞書的な意味や、業界内での使用状況等に応じた取引者・需要者の認識等をもとに、その商標がどのような意味を持つものと認識されるかが重要なポイントとなります。特許庁や裁判所に適切な証拠を提出し、出所識別標識として機能する商標であると納得してもらえるよう努めることになります。

また、その商標が商品・役務の品質、形状その他の特徴を説明するものとして一般的に使用されている場合、その商標は3条1項3号により登録することができないと判断されやすくなります。このため、実務上、説明的な意味合いに用いられやすい商標については、これを使用する他者に対して削除等を求めるなどし、説明的な意味合いを持つものと認識されないよう継続的な対応が必要になります(本審決も、「二次元VR」の文字が品質等を表示するものとして取引上使用されていないという事情を考慮しています)。

本願商標も、みごとに商標登録第6302590号として登録されています(本記事掲載時点)。

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この関真也法律事務所ウェブサイトでは、XR・メタバースに関連する商標の実例を引き続き取り上げていきますので、是非ご注目下さい。


関真也法律事務所では、日本商標協会理事、XRコンソーシアム監事等を務め、XR・メタバース業界におけるブランド及びデザインの保護について知識・経験・ネットワークを有する弁護士が対応いたします。

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この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

使用言語 日本語・英語