雑誌名 特許研究第75号31頁
発行元 独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)
発行日 2023年3月31日
キーワード メタバース XR(VR/AR/MR) オブジェクト アバター コンテンツ 画像意匠 操作画像 表示画像 意匠法 商品形態模倣 実質的同一性 クリエイターエコノミー
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【要旨(「抄録」より抜粋)】
メタバース上の経済取引が活発化するのに伴い,他人の商品等のデザインを模倣したデジタルデータが提供される事例が注目を集め,意匠法,不正競争防止法 2 条 1 項 3 号をはじめとする各種知的財産法による保護の拡充が盛んに議論されるようになった。
この議論に際しては,模倣を受ける当事者の正当な利益を保護するのと同時に,クリエイターによる創作活動に対する萎縮的効果を生まないよう配慮するという要請もある。従来のゲーム等に代表されるコンテンツの創作活動は,他人の作品に依拠せず独自に創作する限り,偶然似通った作品になっ
たとしても権利侵害にはならないという著作権法の規律に服し,これによって自由な創作活動が確保されている。メタバースは,こうしたコンテンツ創作の実態に近い側面がある。そこへ独自創作であろうと侵害が成立し得る意匠法の規律を持ち込むと混乱を招き,創作活動を萎縮させてしまうおそれがある。
この観点から画像意匠の保護の規律を見たとき,「操作画像」及び「表示画像」と,意匠法の保護対象ではない「コンテンツ」の区別が難しい場合があるとの議論に注意を要する。この区別が曖昧な場合,メタバース上のオブジェクトの保護が意匠法の規律に服するかどうかを容易に判別できず,結局,創作活動への萎縮的効果を生じるおそれがあるからである。
また,不正競争防止法 2 条 1 項 3 号に関しては,ネットワーク上で形態模倣商品を提供する行為を同号の適用対象とする法改正が見込まれている。この場合にも,例えばフィジカルな商品の形態を再現したデジタルデータを提供する行為が同号の「模倣」に該当するか否かを明確に判別できない場合,創作活動に対する影響が生じ得る。
これらの問題意識のもと,「画像意匠」と「コンテンツ」の区別,そしてデジタル領域における「模倣」該当性の考え方につき,条文,意匠審査基準,意匠登録例,裁判例等をもとに検討を試みる。