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本判決:Lahr v. Adell Chemical Co., 300 F.2d 256 (1st Cir. 1962)
【事案の概要】
本件は、請求原因を主張していないことを理由とする訴えの却下に対する不服申立てである。
訴状によると、原告は、米国、カナダその他の地域における合法的な舞台、映画、ラジオ、テレビその他のエンタテインメント・メディアでスターダムを獲得し、それにふさわしい経済的成功を収めたプロのエンターテイナーである。これは、彼の「独特で独創的な音程、抑揚、アクセント及びコミカルな音の組み合わせによるコミカルな声の表現のスタイル」が、彼を「ユニークで非凡なコメディ・キャラクターとして広く知られ、すぐに認識される存在」にしたことが大きな要因となっている。
訴状によると、被告Adell Chemical Companyは、同社の商品「Lestoil」のテレビ広告で、アヒルのアニメーションをCMとして使用し、原告の同意を得ずに、「同アヒルの声として、原告の音声の物真似をすることに特化した役者を起用した」と主張している。また、米国、カナダその他の地域における「膨大な数のテレビ視聴者及びエンタテインメント業界」は、当該アニメのアヒルが発する言葉やコミカルな音声は原告が提供し、作り出したものであると信じており、これは原告の「創造的な才能、声、音声、コミカルな声の表現」の不正利用であり、「名声や評判を悪用したもの」であると主張されている。さらに、原告が匿名でテレビCMに出演するまでに落ちぶれたことを示すことで原告の価値を貶めたこと、また、模倣は認識できるものの質が劣り、原告の能力が低下したかのように思わせたことの両面から、エンタテインメント業界における原告の評判を傷つけた。
【裁判所の判断】
被告は、模倣は不正競争ではないと長々と主張することで、問題を曖昧にしている。出所が混同されないのであれば、たしかにその主張は正しいかもしれない(略)。しかし、原告は、単に自身の素材やアイデアをコピーされたという意味での模倣を主張しているのではなく、アイデンティティの誤認を招くことを主張している。・・・たしかに、競合関係にあるのは被告の商品ではなく、被告が自らの利益のために支援している匿名の偽者の産物である。しかし、これは無用の区別である。原告の主張は、被告が直接的な意味において「彼の手柄を横取りしている」というものである。つまり、視聴者は原告の声を聴いていると信じたために被告のCMの価値が高まったという主張である。原告の主張を考慮すると、そのような価値の向上がないとはいえない。
さらに、・・・被告の行為により、原告のオーディエンスが飽和状態となり、原告の市場が縮小した可能性も十分に考えられる。パフォーマーに無限の需要があるわけではない。当裁判所は、原告が著作権保護の対象となる「財産上の」利益を示していないという被告の主張には賛同するかもしれない。また、意図的にせよそうでないにせよ、混同を招くのに十分なほど他の歌手と歌声が似ている一般的な歌手が、それを自由に行うことができないと言うことにも躊躇を感じるかもしれない。本件における原告は、はるかに広い意味においてユニークで、独特のスタイルと種類のパフォーマンスを主張している。
地方裁判所の判決を破棄し、これと矛盾しない範囲でさらなる手続きを行うために同裁判所に事件を差し戻す旨の判決を言い渡す。
【ちょっとしたコメント】
前回のMidler事件判決に引き続き、生成AIやディープフェイクに関連する技術の発達に伴って注目を集めている「声の権利」に関連する米国裁判例をご紹介します。
本件は、Midler事件と同様に、有名人の声をテレビCMに使用したという事案です。ただ、本件は、Midler事件とは異なり、テレビCMに登場するアヒルのキャラクターの声として使用したことが問題となり、これが不正競争と認められ得ると判断した点において特徴的です。近時話題を集めている声優の声の権利の問題に近く、参考になりそうです。
本判決は、商品の出所ではなく原告のアイデンティティの誤認という点に着目して、原告の声やコミカルな音声的表現が独特であり、当該テレビCMにおけるキャラクターの声が原告の声であると視聴者を誤認させることが当該テレビCMの価値を高めていることなどを考慮して、不正競争に関する原告の主張につき、請求原因の主張すらできていないと判断して訴えを却下した原判決を破棄し、事件を原審に差し戻しました。
※本判決は、請求が認められるために必要な最低限の主張はしていると認め、審理を続けると判断したにすぎず、最終的に原告の請求が認められたわけではありません。
また、本判決が、被告が原告のアイデンティティとの誤認を招く態様でよく似た声を利用し、これを市場に対していわば過剰に供給することにより、原告のエンタテイナーとしての需要が減少するおそれがある点において、不正競争と認めるに足りる原告の利益への侵害を見出していると読み取ることができます。声優をはじめ、日本におけるエンタテイナーの声の権利について考える上でも参考となりそうです。
いかがでしたか?
関真也法律事務所は、俳優・声優・歌手等やその所属事務所をはじめ、エンタテインメント産業で活躍される方々の権利について、日本国内外の実務や、法令・裁判例・学説等を踏まえ、理論的な基礎を伴った解決を提供するべく、継続的かつ積極的に、実務・研究・情報発信・政策提言等の総合的な活動を行ってまいります。近時注目が高まっている、生成AI・ディープフェイクに関わる「声の権利」の問題についても、以下のように研究活動を行っています。
参考:関真也法律事務所/【資料公開】『連続研究会 エンタテインメント産業と生成AI・ディープフェイク』第1回・第2回報告資料(日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会)
関真也法律事務所では、生成AIやディープフェイクの問題を含めて、漫画・アニメ・映画・TV・ゲーム・音楽・芸能・クリエイター等のエンタテインメント、ファッション、XR・メタバース、デジタルツインやNFTその他web3に関する法律問題について、広く知識・経験・ネットワークを有する弁護士が対応いたします。
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