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【キーワード】

VTuber(バーチャルYouTuber) 誹謗中傷 名誉感情 人格権 リポスト 同定可能性 発信者情報開示


【事実の概要】

原告は、「V」という名称で、3Dのバーチャルキャラクターを用いて動画配信等を行ういわゆるVtuberとして活動する者である。

氏名不詳者は、Twitter(当時)上で、他のアカウントが投稿したツイートをリツイートした。

このリツイートの内容は、それぞれ以下のとおりである。

本件投稿2:

「VtuberはVが気持ち悪いから、全ての女Vtuberが気持ち悪い認識」という内容を含む投稿。

本件投稿3:

「Vもっかい心壊れた方がいいかもしれん、こいつも毒や」という内容を含む投稿。


【判決の要旨】

本判決は、以下のとおり判断しました。

本件投稿2及び3は、他のアカウントの投稿をコメントを付けずにそのまま投稿するリツイートであるところ、証拠(略)によれば、本件投稿2及び3の表示は、「Rさんがリツイート」(筆者注:リツイート者のアカウント名)との記載の下に、元ツイート主のユーザー名とアカウント名及び元ツイートの内容が表示されていることが認められ、本件アカウント(筆者注:リツイート者のアカウント)に元ツイートの投稿内容がそのままの形で表示されているものである。証拠(略)によれば、本件アカウントの冒頭に表示された投稿や、本件投稿2及び3の前に投稿された本件投稿1も、本件投稿2及び3の元ツイートと同様「V」を話題とする内容であると認められ、このことにも照らすと、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、本件投稿2及び3は、それぞれの元ツイートの表現内容がそのまま各投稿の表現内容をなすものといえる。

また、・・・原告は、A株式会社が運営する「P」という多数のVtuberが所属するプロジェクトに所属し、バーチャルキャラクターを用いて動画配信等を行う「V」として活動していることが認められるところ、本件投稿2及び3は、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、いずれも、キャラクター自体ではなくVtuberとしての「V」を話題とする内容であるといえるから、「V」として活動する原告に関する投稿であると認めるのが相当である。原告の氏名や住所等、原告の特定に資する情報が述べられていないことをもって、同定可能性が認められないとする被告の主張は採用できない。

そこで、本件投稿2及び3が、社会通念上許容される限度を超えて原告の名誉感情を侵害することが明らかであるといえるかについて検討する。

本件投稿2は、「Vが気持ち悪いから全ての女Vtuberが気持ち悪い」旨を述べるものであり、原告や女性Vtuberに対する嫌悪感を示すものであるといえるが、具体的な事実を摘示することなく単に抽象的に「気持ち悪い」と指摘するにとどまるもので、本件投稿2と同様、原告に対する悪感情を示すものと読める本件投稿1の内容に照らしても、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為であるとまでは認められない。

これに対し、本件投稿3は、「Vがもう一回心が壊れた方がいい」旨を述べるものであるところ、証拠(略)によれば、原告は、以前に「V」としての活動を通じて精神的に不調をきたし、活動を休止した期間があったこと、原告はその当時、心が壊れた旨をツイッターに投稿したことが認められる。そうすると、本件投稿3は、上記事実に関連付けて、「V」はもう一度心が壊れた方がいいと述べるものであるといえるから、社会通念上許容される限度を超えて、原告の名誉感情を侵害するものであるというべきである。

よって、本件投稿3については、権利侵害の明白性があると認めるのが相当である。


【考察】

リポストするだけで名誉感情侵害の責任を問われる可能性がある

本判決は、本件アカウントにおける他の投稿等を踏まえた上ではありますが、リツイート(現Xにおけるリポスト)そのものが、元ツイートと同じ表現内容をもって改めて投稿されるものと評価し、リツイート者自身による名誉感情侵害を認めたものといえます。つまり、他人の元ツイートをリツイートしただけだからといって、リツイート者には責任がないとは必ずしも言えないのです。

VTuberを含め、他人を傷つける投稿を安易にリポスト等することは避けるべきでしょう。

実務的にも、元ツイートが古すぎるため元ツイート主の特定が困難となっているような場合に、古い元ツイートによる悪影響が時を隔てて蒸し返されることを防止するなどの目的で、リツイートの削除その他リツイート者に対する法的措置を検討する実益はあると考えられます。

投稿内容自体から、キャラクターではなく演者に対する誹謗中傷であると認められる場合がある

一般論として、ある投稿等がアバターないしキャラクターそのものに向けられたものである場合、アバターやキャラクターそれ自体に人格や感情はないため、名誉感情侵害は成立し得ないという考え方があります。

参考:関真也法律事務所解説記事/【メタバースの法律《誹謗中傷》】「バーチャルな存在」に対する名誉毀損・侮辱は成立するか?~VTuberに関する裁判例の紹介~

以前の記事でご紹介したとおり、VTuberの演者に対する名誉感情侵害を認めた裁判例は他にもありますが、その裁判例では、VTuberの言動がその演者自身の個性を活かし、その体験や経験をも反映したものになっているという事実を認定した上で、VTuberに対する誹謗中傷はキャラクターそのものに対するものではなく、演者に対するものであると結論付けたものでした。

参考:関真也法律事務所解説記事/【VTuber判例シリーズ】VTuberの演者に対する名誉感情侵害の成立が認められた事例(大阪地判令和4年8月31日)

しかし、本判決は、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準に、本件投稿2及び3の内容そのものから、キャラクター自体ではなくVTuberとしての「V」を話題とし、その演者である原告に関する投稿であると認めました。

この点、被告は以下のように主張していましたが、裁判所はこの主張を退けています。

本件投稿2及び3には、「V」というバーチャルキャラクターの名称が述べられているだけで、原告の氏名や住所等、原告の特定に資する情報は全く述べられていないから、それが原告を話題の対象としているなどとはいえず、同定可能性は認められない。

したがって、本判決は、その投稿が、氏名・住所等により、どこの誰であるという具体的な形で演者を特定できるわけではない場合であっても、その投稿が誰に関する投稿であるかを、VTuberとして活動する実在の人物という抽象化したレベルで同定できれば、その人物に対する名誉感情侵害は成立し得ると考えていることになります。

VTuberは何も感じないキャラクターではなく、その背後で活動する生身の人間が実在することをきちんと認識した上で、お互いに敬意を持って接したいですね。

VTuberの演者様、所属事務所その他関係者の皆様のご参考になれば幸いです。


関真也法律事務所では、発信者情報開示を含むVTuberに関する誹謗中傷対策その他の権利保護のほか、VTuberの演者、所属事務所、配信プラットフォーム、イラストレーター、3Dモデラーなど、VTuberに関わる様々な方から、著作権・商標権その他の知的財産問題、契約書対応、下請法・フリーランス法対応、景品表示法対応、労働法対応その他多岐にわたる法律相談をお受けしています。

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《その他参考情報》
XR・メタバースの法律相談:弁護士・関真也の資料集

 

 

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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