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米国 著作権 写真 SNS ファッション フェアユース de minimis use クレジット
本判決:Mark Iantosca v. Elie Tahari Ltd., 1:19-cv-04527 (SDNY).
【事案の概要】
原告Mark Iantoscaはプロの写真家であり、被告Elie Tahari, Ltd.は高級衣服デザイナーである。
2019年2月7日、原告は被告の衣服を着用したデジタル・コンテンツ・クリエイターの写真(以下「本件写真」という。)を撮影した。
2019年2月20日、被告は、本件写真を、自らのFacebook及びTwitterのアカウントに投稿した。この投稿には、”@linhniller caught us in our footsteps wearing head to toe # ElieTahari. We loved how she styled the whole look.” というキャプションが付され、また、原告の名前もタグ付けされていた。
原告は、著作権侵害を理由として提訴し、被告が著作権侵害の責任を負うとの点につき、サマリージャッジメントの申立てをした。
被告は、次の3点を抗弁として挙げ、著作権侵害は成立しないなどと主張した(その他の主張については、本記事では割愛)。すなわち、被告による本件写真の投稿は:
①フェアユース(米国著作権法107条)に当たる
② “de minimis use” (僅少利用)に当たる
③本件写真が被告の衣服を着用したモデルを撮影したものであり、かつ、被告は原告をその撮影者としてクレジットしているから、著作権侵害とはならない。
【裁判所の判断】
裁判所は次のとおり述べ、上記①~③の抗弁をいずれも否定し、サマリージャッジメントを認めた。
①フェアユースについて
(フェアユースの第1要件である「使用の目的及び性質(使用が商業性を有するか又は非営利的教育目的かを含む)。」について)「被告は、その利用が、その衣服を広告及び販売することを意図した『商業的な利用』であること以外は何も立証していない(略)。さらに、被告の利用は、『社会を豊かにすること』に向けた『新たな洞察や理解』を加えるものではないから、何ら『変容的な (transformative)』方法による利用ではない(略)。」
(第2要件である「著作物の性質」について)「原告の著作物(モデルの写真)は、典型的な『創作的』作品であり、したがって著作権の保護を受ける(略)。」
(第3要件である「著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量及び実質」について)「被告は、改変を伴うことなく本件写真を再投稿した(略)。したがって、当該著作物全体との関係における当該利用の『量及び実質』は、原告に有利に働く(略)。」
(第4要件である「著作物の潜在的市場又は価値に対する使用の影響」について)「被告による本件写真の無断投稿は、一見して、その著作物の複製を他者に『許諾する原告の制定法上の権利を侵す』ものである(略)。」
②”de minimis use” について
「他者の写真を再投稿することがソーシャル・メディア上で当たり前になっていることのみを理由に、本件写真の利用は de minimis(僅少)なものにすぎないとする被告の主張も、同様に成り立たない。被告はかかる主張について何らの根拠も示していない。仮にこの主張が認められるとすれば、著作権保護における劇的な転換となるであろう。自らの製品の販促のためにプロの写真家の作品を利用することは、「些細なこと」(“trivial”) とは到底言えない(略)。」
③「本件写真が被告の衣服を着用したモデルを撮影したものであり、かつ、被告は原告をその撮影者としてクレジットしているから、著作権侵害とはならない」との被告の主張について
「被告は、本件写真のキャプションにおいて原告をクレジットしたこと、又は原告が当該モデルに被告の衣服を着用させたことを理由に、被告が本件写真を利用する権利を有するとの見解を根拠付ける先例を何ら示していない。簡単に言えば、出所を明示すること (attribution) は著作権侵害に対する抗弁とはならない(略)。また、創作性があり著作権が認められる写真の表現に関しては、『何が描写されているかではなく、いかに描写されているか』が重要である(略)。本件において、本件写真の創作性は、明らかにそのアングル、照明、当該モデルのポーズの選定その他の芸術的な選択を通じて表現されている。被告は本件写真の完全なコピーをソーシャル・メディアに再投稿したのであるから、当該モデルが被告の衣服を着用しているという被告の主張は、著作権侵害に係る責任とは関係がない。」
【ちょっとしたコメント】
ファッション企業などのメーカーにとっては、自社製品が綺麗にカッコよく撮影されている写真を紹介したくなる気持ちもよく分かりますよね。
でも、写真家(特に本件のようなプロの写真家)の利益も考えれば、常に自由に利用してよいというわけにはいきません。
上記③に関して裁判所も述べているように、写真の創作的価値はそこに写っている被写体だけで決まるのではなく、アングルなど写真家の芸術的観点からの選択が大きく関わってきます。したがって、写真に写っている自社製品のデザインなどがいかに優れていたとしても、常に自由に写真を利用できるとは限らず、写真家の芸術的表現に対する権利(=著作権)に配慮しなければならないのです。
本件の事案のもとでは、日本の著作権法でも同様の結論となりそうです。
他者が撮影した写真を利用する際には、写真家から許可を得る、権利制限規定の範囲内で利用するなど、適切な対応が必要です。SNSを通じたプロモーションが大きな役割を果たしている今、その重要性が増しています。
※この記事は、関真也弁護士のnoteに2020年9月30日付けで掲載した記事を一部更新し、転載したものです。
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