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米国  商標法  商標登録  一般名称  ドメイン名  識別力 IT

本判決United States Patent and Trademark Office v. Booking.com B. V., 140 S.Ct. 2298 (2020).


【事案の概要】

Booking.com社は、”Booking.com” というブランドで、ホテル予約その他のサービスを提供するデジタル旅行会社であり、”Booking.com” は同社のウェブサイトのドメイン名でもある。Booking.com社は、旅行関連サービスに関する4件の商標につき、登録出願をした。これらの商標は、視覚的な特徴は異なるが、いずれも “Booking.com” という語を含むものであった。

米国特許商標庁 (United States Patent and Trademark Office; USPTO) の審査官及び商標審判部 (Trademark Trial and Appeal Board; TTAB) は、いずれも、”Booking.com” という語は本件に係る役務について一般的なものであり、したがって登録することができないと判断した。TTABによれば、”Booking” は旅行の予約をすることを意味し、”.com” は商業ウェブサイトを示すものである。 そのうえで、TTABは、「需要者は、BOOKING.COMという語が、主に旅行、ツアー及び宿泊施設に関するオンライン予約サービスをいうものと理解する」と判断した。また、TTABは、仮に “Booking.com” が一般名称ではなく、記述的なものであるとしても、セカンダリー・ミーニングを欠くから登録できないと判断した。

Booking.com社は、バージニア東部地区連邦地方裁判所に訴えを提起した。同裁判所は、需要者の認識に関してBooking.com社が提出した新たな証拠に基づき、”Booking.com” は、(”booking” とは異なり)一般名称ではないと判断した。同裁判所は、「一般需要者」は、「主として、BOOKING.COMがある属をいうのではなく、当該ドメイン名で利用可能な『booking(予約)』に関するサービスを記述するものと理解する」と認定した (Booking.com B.V. v. Matal, 278 F.Supp.3d 891, 918 (2017))。”Booking.com” が記述的商標であると判断したうえで、同裁判所は、それがホテル予約サービスについてセカンダリーミーニングを獲得したと認定した。これらを理由に、同裁判所は、Booking.com社の商標は、同サービスにつき、商標登録に必要な識別性要件を満たすと結論付けた。

USPTOは、”Booking.com” が一般名称ではないという連邦地方裁判所の判断のみを争い、控訴を提起した。第4巡回区控訴裁判所は、需要者が “Booking.com” の語をいかに認識するかに関する連邦地方裁判所の判断に誤りはないと認定し、第一審の判決を支持した。その判断にあたり、控訴裁判所は、”booking” のような一般名称と “.com” の組合せは、常に一般名称であるというPTOの主張を排斥した (915 F. 3d 171, 184 (2019))。

USPTOが上告した。


【裁判所の判断】

棄却(原判決を支持)。

“Booking.com” はオンラインホテル予約サービスの一般名称か

「第一に、『一般』名称 (“generic” term) は商品又は役務の『区分』(class) を指すものであり、当該区分に関する個々の特徴又は例を指すものではない。」「第二に、結合商標に関しては、識別力の検討は、その語の全体としての意味に着目して行うのであり、その部分を分離して行うのではない。」「第三に、識別性の有無に関して問題とすべきなのは、その語が持つ需要者にとっての意味である。」

「これらの原則に基づき、”Booking.com” が一般名称であるか否かは、当該語が、全体として見た場合に、需要者にとって、オンラインホテル予約サービスという区分を示すものであるか否かによって判断される。したがって、”Booking.com” が一般名称であるとすれば、その認定は、需要者において、Travelocity(他社による同種サービス)は「Booking.com」であると理解するであろうという判断が前提になる。また同様に、需要者が、オンラインホテル予約サービスの信頼ある情報源を探す際に、頻繁に旅行する人に、好きな “Booking.com” 提供者を挙げるよう頼むであろうことが前提となる。」

「実際には、需要者は “Booking.com” という語をそのように認識していない。USPTOは、かかる判断をもはや争っていない。このことは、本件を解決するのに十分である。すなわち、”Booking.com” は、需要者にとって一般な名称ではない以上、一般名称ではない。」

USPTOの主張(一般名称と “.com” の組合せは一般名称である)について

「上記結論に反し、USPTOは、需要者の認識に関する具体的な証拠にかかわらず、”Booking.com” は登録を受けることができないとするほとんど当然不登録原則 (a nearly per se rule) を主張している。USPTOの見解(反対意見も採用している)によれば、一般名称が “.com” などのジェネリック・トップレベル・ドメインと組み合わせられたときは、その組合せは一般名称である。言い換えれば、USPTOによれば、全ての “一般名称.com” という構成から成る語は、例外なく一般名称である。」

「USPTOは、その提唱する不登録原則が、Goodyear’s India Rubber Glove Mfg. Co. v. Goodyear Rubber Co., 128 U.S. 589, 9S.Ct. 116, 32 L.Ed. 535 (1888) において適用された、一般的な会社の指称を一般名称に付加することによって登録可能性が与えられるわけではないというコモンロー上の原則に由来するものであると主張する。Goodyear事件(ランハム法以前に遡る判決)において、当裁判所は、「Goodyear Rubber Company」は「排他的に私有できるものではない」と判示した(略)。”Goodyear Rubber” の語は、それだけでは、商標として機能することができないものとされた。なぜなら、その語は、当時、「Goodyearの発明として知られる方法で生産された商品という周知の区分」を指すものだったからである(略)。”Company”を付加することは、「単に、当該商品を扱うための提携又は組合を形成したということを示すにすぎない」から、「”Company” という語の付加は何らの保護対象となる意味をも提供しない」と裁判所は結論付けた。”Goodyear Rubber Company”(あるいは、”Wine Company, Cotton Company, 又は Grain Company”) について排他的な権利を認めると、あらゆる者の「当該物品を取り扱い、又はそうした事実を世界に公表する」権利を害することになる、と裁判所は説明した(略)。

「USPTOは、”一般名称.com” は “一般名称 Company” と同様であり、したがって連邦商標登録はもちろん、その他の商標による保護を受けられないと主張する。USPTOによれば、一般名称に “.com” を付加することは、(”Company” を付加するのと同じように)「[ある者の]サービスを他の者のサービスから識別する新たな意味を何ら伝えるものではない。反対意見は、次のように述べ、この考え方に賛同している。すなわち、”一般名称.com” は、その一般的な商品又はサービスがオンラインで提供されていることを伝えるに過ぎない(略)。」

「その前提には誤りがある。ある “一般名称.com” の構成から成る語は、需要者に対し、出所識別性、すなわち特定のウェブサイトと関連があることをも伝える。USPTO及び反対意見が認めるように、1つの主体のみが同時に特定のインターネットドメイン名を保有することができるから、『ドメイン名システムのそのような側面に詳しい需要者は、BOOKING.COMが何らかの特定の主体を指すことを推論することができる』。・・・・・・したがって、需要者は、ある “一般名称.com” という語が、それに対応するウェブサイトを言い表し、又はそのウェブサイトの保有者を識別するものであると理解することができる。したがって、当裁判所は、”一般名称.com” という語がオンラインの商品又は役務という区分全体のみを示すにすぎず、よって全面的に出所識別力がないとする立場に賛同することができない。」

「当裁判所は、USPTOが提案する “一般名称.com” という構成から成る語は一般名称であるというルールを認めないが、かかる語を自動的に一般名称ではないものと分類するルールを採用するものではない。ある “一般名称.com” という語が一般名称であるか否かは、需要者が実際に当該語をある区分の名称として認識しているか、それとも当該区分内の一部を区別することができる語として認識しているかによって異なると当裁判所は判示する。」

“Booking.com” のような語を商標として保護することは競争を阻害するか

「USPTOの主な懸念は、”Booking.com” のような語に商標としての保護を認めると、競争が阻害されるおそれがあるという点にある。しかし、USPTOは、オンラインホテル予約サービスを提供しようとする他者が、そのサービスを “Booking.com” と呼ぶ必要があるとは主張していない。むしろ、USPTOは、”Booking.com” について商標としての保護を認めると、競合他社が、”booking” という語を使用し、又は “ebooking.com” 若しくは “hotel-booking.com” などのドメイン名を採用することができなくしたり、それらを阻害する可能性があることを懸念している。したがって、USPTOが異議を唱えているのは、”Booking.com” を標章として排他的に使用することに対してではなく、他社が自由に使用できるようにしておくべき類似の言語(すなわち、”booking”) に対する不当なコントロールに対するものである。」

「そのような懸念は、あらゆる記述的な標章についてあり得ることである。この点、商標法は、かかる標章につき、商標による保護を完全に否定してはいない。注目すべきことに、競合他社によるある標章の使用は、それが需要者に混同を生じさせるおそれがない限り、商標権を侵害するものではない(略)。混同のおそれの有無を判断するに当たり、裁判所は、当該標章の識別性を考慮する。・・・ある標章が一般的な又は記述性の高い要素を含む場合、需要者は、そのありふれた要素が他の形で使用されているときに、それがその標章の保有者の出所に係るものであると考える可能性は低い。(略)。・・・また、ある記述的な語を、「公正かつ誠実に」、「商標としてではなく」単に自身の商品を記述するために使用する者は、需要者において何らかの混同が生じたとしても、古典的フェアユースとして知られる法理(略)により、責任を免れる(略)。」

「これらの法理は、USPTOの言う反競争的な効果を防ぎ、”Booking.com” の登録によってその保有者が “booking” という語を独占しないことを確保している。Booking.com社は、”Booking.com” が「弱い」商標となるであろうことを認めている(略)。Booking.com社は、当該商標が記述的であるがゆえに、「混同のおそれを立証することがより困難となる」ことを認めている(略)。さらに、その商標は多くの「類似する言葉で表現された商標」の1つであることから、Booking.com社は、そっくりなバリエーションについては侵害が成立しない可能性が高いことを認めている(略)。加えて、Booking.com社は、”Booking.com” の連邦商標登録は、競合他社が自社のサービスを記述するために “booking” という言葉を使用することを禁じられないことを認めている(略)。」

「また、USPTOは、”一般名称.com” ブランドの保有者が、既存の共創上の優位性に加えて商標の保護を必要としているのか疑わしいとする。USPTOの主張によれば、Booking.com社は、他のウェブサイトが使用できないようにし、また、需要者が見つけやすいように、ドメイン名をすでに押さえている。・・・しかしながら、そのような競争上の優位性は、必ずしも、ある標章が連邦登録を受けられない理由にはならない。全ての記述的な標章は、直観的に当該商品又はサービスにリンクしており、したがって、需要者は検索エンジン又は電話帳を使って容易に見つけることができる。それにもかかわらず、ランハム法は登録を認めている(第1052条(e),(f))。また、USPTOは、なぜ、あるドメイン名とその保有者との間の排他的な関係があることにより、そのドメイン名が、何人でも自由に使用できるものとすべき一般名称になるのかを説明していない。そのような関係性は、むしろ、商標登録を認めることがより適切であることを裏付けている(略)。」

【ちょっとしたコメント】

本件は、”Booking.com” という商標の登録可能性をめぐり、一般名称と “.com” を組み合わせた語が、一般名称として商標登録を否定されるかどうかが争われ、商標登録は可能であると合衆国最高裁判所が判断した事例です。

商標は、それが付された商品・サービスが、誰が提供する商品・サービスなのかを見分けるための目印です。これを、商標の「出所識別機能」といいます。

したがって、ある商標が商標登録が認められるためには、それを見れば、他の者が提供する商品・サービスと見分けることができるものであることが必要です。このように見分けさせる性質を、「(出所)識別力」(distinctiveness) といいます。

米国の連邦商標法では、判例に基づき、識別力の有無・程度に応じて商標を次のとおり分類し、登録可能性を判断しています。

図1

「一般名称」に該当すると、その名称を商標登録することはできず、誰でも自由に使用できるということになります。

「.com」はジェネリックトップレベルドメイン (gTLD) の1つであり、それだけで誰の商品・サービスであるかを見分ける力はありません。したがって、一般名称に「.com」を組み合わせただけで商標登録できるとなると、他人がその一般名称を使用することもできなくなってしまうのでは・・・ひいては、その一般名称が指し示す商品・サービスの提供自体が困難となり、市場が不当に独占されてしまうのでは・・・という心配が出てきます。これが、「一般名称.com」という形の語について、一律に商標登録を否定しようとしたUSPTOの立場です。

合衆国最高裁判所は、USPTOの上記考え方を採用せず、”Booking.com” の商標登録を認めました。その理由をざっくりまとめると、次のようになると思われます。

① ”Booking.com” というドメイン名を使用できるのはそのドメイン名の
保有者だけだから、”Booking.com” が指し示す商品・サービスの提供者
は一対一で特定される。
➡ 需要者から見て識別力がある)。
② オンライン旅行予約サービスを提供しようとする者は、”Booking”
(予約)の語を使用できればよく、”Booking.com” を使用しなければ
ならないわけではないし、”Booking.com” の商標権の効力が及ぶ範囲は
狭い。
➡ 商標登録を通じて “Booking.com” の独占使用を認めても、競争を
不当に制限することにはならない
)。

※ 上記①に関連し、”Booking.com” が需要者にどのように認識されている
かについては、原審の事実認定に基づいていると思われるので、そちらを参照すると良いと思います。

オンラインサービスを提供する際に、自社の商号やサービス名などとの関係で適切なドメイン名を確保することの重要性がうかがえます。

この点、自社が使用する商標「○○」につき、ドメイン名「○○.com」などを先に取得等されてしまったときの対処としては、日本法では、不正競争防止法2条1項19号を活用することなどが考えられます。

ちなみに、日本でも、「Booking.com」の登録可能性が争われた裁判例として、知財高判平成22年12月14日があります。

図4

この事件は、”Booking.com” が一般名称かどうかではなく、上記本願商標 (“BOOKING.COM”) が上記引用商標 (“Book-ing”) に類似するかどうか(日本の商標法4条1項11号)が争われた事案でしたが、引用商標が不使用商標であったことなどに加えて次のような点に言及し、結論として類似性を否定しています。

 「なお 、『BOOKING』部分と『.COM』部分とを分離すべきか否かにつき当事者間に争いがあるが、『.COM』がインターネットアドレスの後部に付くものであることはよく知られているというべきであり、『○○.COM』との表示は、全体が一体となってインターネットアドレスの一部を表すもので、一体であることによって特定の意味を持つといえ、本願商標においても、『.COM』 部分と『 BOOKING』部分は文字の大きさも同じであり、色彩が違うとはいえ、『.COM』部分も十分判読可能であるから、本願商標をあえて分離して、『.COM』部分を要部から外すことに合理的理由はない。」

 ご参考になれば幸いです。

※この記事は、関真也弁護士のnoteに2020年8月23日付けで掲載した記事を一部更新し、転載したものです。


関真也法律事務所では、商標・ブランド及びデザインの保護について知識・経験・ネットワークを有する弁護士が対応いたします。

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この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

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