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本判決:Daniels v. Walt Disney Company, 952 F.3d 1149 (9th Cir. 2020)
【事案の概要】
本件は、感情を擬人化し、色分けされたキャラクター (“The Moodsters“) が、著作物として保護されるか否かが争われた事案である。
The Moodstersは、感情を擬人化し、色分けされた5体のキャラクターであり、次のとおり、それぞれが異なる感情を表している:ピンク(愛)、黄色(幸福)、青色(悲しみ)、赤色(怒り)及び緑色(恐怖)。
原告は、2005年、Moodstersの世界を描いたキャラクター、テーマ及び設定の概要を説明する資料 (The Moonsters Bible) (“Bible“) を作成し、公表した。
また、原告は、2007年、The Moodstersを主人公にした30分間の見本版エピソード(タイトルは “The Amoodsment Mixup”) (“pilot“) を公表した。
さらに、原告は、2012年から2013年にかけて、Moodsters商品の「第二世代」(玩具、書籍など)を開発し、2015年から販売した。
※当初の各キャラクタ―の画像について、こちらのHPをご参照。
※「第二世代」の各キャラクターの画像について、こちらのHPをご参照。
【裁判所の判断】
第2巡回区控訴裁判所は、次のとおり述べ、The Moodstersの著作物性を否定して被告のMotion to Dismissを認めた原審の判断を支持した。
判断基準 (“Towle Test”)
「キャラクターは、(1) 『概念的な属性だけでなく、物理的な属性』をも備え、(2) それが登場する時には常に、同一のキャラクターとして認識し得るほど十分に描写』され、『一貫した、同一のものと特定し得るキャラクターとしての特徴及び特性を表』しており、かつ、(3) 『とりわけ独自性があ』り、『何らかの固有の表現要素を含』んでいる場合には、著作権による保護を受けることができる」 (DC Comics v. Towle, 802 F.3d 1012, 1021 (9th Cir. 2015))。
本件のキャラクターへのあてはめ
第一要件について:
The Moodstersの個別のキャラクターが第一要件を満たすことについて、当事者間に争いはない。各キャラクターは物理的な属性を備えているから、それらは単なる言語上のキャラクターではない。
第二要件について:
「複数の作品又はバージョンに登場したキャラクターは、『一貫した外観を有する必要はない』が、それが登場する時は常に同一のキャラクターとして認識し得るように、『一貫した、同一のものと特定し得るキャラクターとしての特徴及び特性を表すものでなければならない』」
「ゴジラやジェームズ・ボンドのように、物理的な特徴は個々のバージョンで変化することがあっても、作品及び改作ごとに一貫性があり、かつ同一のものと特定し得るキャラクターとしての特徴及び特性を維持しており、一貫して認識し得るキャラクターは、この要件を満たす。・・・これに対し、一貫性があり、かつ同一のものと特定し得る、キャラクターとしての中核的な一連の特徴及び特性を欠くキャラクターは、保護されない。なぜなら、そのキャラクターは、それが登場する時に常に同一のキャラクターとして直ちに認識し得ないからである。」
「The Moodstersについて検討するに当たり、当裁判所は、まず、キャラクターに関するアイデアと、そのキャラクターの表現を区別する。気分又は感情を表すために色彩を使用するという考えは、著作権による保護の範囲に含まれないアイデアである。」
「とりわけ、色彩それ自体では、一般的に、著作権の保護対象とはならない。 ・・・また、感情というアイデアも、保護対象とはならない。・・・これらを併せ考えれば、アイデアが十分な描写及び独自性を備えたものとしてキャラクターに具現化されていない場合は、[原告]は、色彩又は感情というアイデアについて著作権による保護を受けることはできず、また、感情を表すために色彩を使用するというアイデアについて保護を受けることもできない。」
「The Moodsterのキャラクターが『十分に描写』されているかを検討するに当たり、当裁判所は、そのキャラクターの基礎にあるアイデアではなく、キャラクターのグラフィックな描写を慎重に審査する。・・・The Moodstersの外観は、時とともに著しく変更された(略)。2005年のBible及び2007年のpilotでは、5体のMoodstersは昆虫のような外観であり、痩せた身体、長い耳、そして感情が強く沸き起こったときに独特の形状となって輝く『感情バロメーター』としての役割を果たす高いアンテナを備えていた。玩具の第二世代では、The Moodstersは、小さく愛らしい熊のような見た目となっている。丸くて抱き心地が良さそうで、小さな耳があり、それぞれ探偵帽と小さなケープを身に着けている。かかる経時的な物理的変形は実質的なものではないということはできず、2005年のMoodstersが、2015年にTargetで販売されていたそれと同一のキャラクターであると結論することは困難である。」
「物理的な外観のみで結論が確定するわけではないことを考慮し、当裁判所は、The Moodstersが一貫したキャラクターとしての特徴及び特性を維持したか否かについても検討する。様々なバージョンにわたって、The Moodstersは、一貫して5つの人間の感情を描き、それらの感情は変更されていない。しかし、色彩及び感情というアイデア以外には、様々なバージョンにわたって一貫した、同一のキャラクターとして特定し得る特徴及び特性はほとんどない。2005年のBibleでは、各キャラクターは、短い数段落で描写されている。例えば、Zipというキャラクターは、『つられて笑ってしまうような笑顔を持ち、毎朝笑顔で友好的な態度で目覚める』ものとして描写されている。2007年のpilot及び玩具の第二世代では、これらの特徴は言及されておらず、Zipの描写から明らかともいえない。このような、同一のキャラクターとして特定し得る特徴のない、『軽くスケッチされた』キャラクターは、Towle事件の第二要件のもとでは、著作権による保護を受けることができない」
「The Moodstersにおいて最も容易に特定し得る特質は、おそらく、感情との関係にある。2005年のBibleは、何か新しいことが起こった時に、各キャラクターが各自の方法で感情とつながりがあることを説明している。すなわち、『怒り』のMoodsterは怒るだろうし、『悲しみ』のMoodsterは悲しくなる。The Moodstersは2007年のpilot(各キャラクターがとりわけ怒りや悲しみのような特定の感情を起こす傾向がある)でも同様に振る舞う。しかし2015年には、5体のMoodesterは『気分探偵』であり、若い少年が彼の生活における状況についてどのように感じるかを明らかにする手助けをしている。」
「最後に、5体のMoodstersは、全てのバージョンにおいて、それぞれ完全に名称が異なる。例えば、赤色/怒りのMoodsterは、当初2005年のBibleにおいてRoaryと名付けられていたが、2007年のpilotではRizzi、そして2015年の時点では、Modstersの玩具やMeet the MoodstersストーリーブックにおいてRazzyと名付けられた。その他4体のキャラクターも、3つのバージョンを通じて同様の名称変更を経ている。名称の変更は、当裁判所の検討において決定的な意味を持つものではないが、3つのバージョンにわたって行われたこれらの変更は、[原告]が、5つの人間の感情を描写することを超えて、十分に描写された一組のキャラクターを決定するに至っていなかったことを一層示している。」
第三要件について:
「[原告]は、The Moodstersはそれぞれが一つの感情を表している点で固有のものであると主張する。しかし、この一面は、その他の点では一般的な特性やキャラクターとしての特徴を備えているに過ぎない点を考慮すれば、The Moodstersを『とりわけ独自性がある』ものとするには不十分である。」
結論:
2005年のMoodsters Bible及び2007年のpilot版テレビエピソードが著作権で保護されることについて争いはない。しかし、[原告]は、「軽くスケッチ」され、十分に描写されていないキャラクターである The Moodstersに関する著作権の主張については、成功していない。
【ちょっとしたコメント】
本判決は、The Moodstersというキャラクターのグラフィックな外観、名称等が、バージョンを経るごとに実質的に変更されてきたことなどを理由に、キャラクターとしての同一性を維持し得る表現上の特徴がないとして、その保護を否定した事例です。
人間の感情を擬人化し、ピンクが愛、黄色が幸福、青色が悲しみ、赤色が怒り、緑色が恐怖をそれぞれ表すものとして色分けされた5体のキャラクターであるという点においては、バージョンが変わっても変更されていませんしたが、この点は、著作権法上保護されない「アイデア」であると評価され、保護が認められませんでした。
もっとも、保護が否定されたのは、あくまで、資料、テレビ番組などの形で制作された表現物(例えば、映画の著作物)から離れた抽象的な存在としてのキャラクターについてです。本判決が最後に述べているように、The Moodstersの描写を含むBibleやpilotが保護されることは明言されています。
本判決によれば、映画などの制作物から離れて、キャラクター(外観的特徴、性格、傾向その他設定など)のみを無断で盗用されることを防止するためには、キャラクターとしての同一性を維持し得る表現上の特徴部分はどこかを明確にしたうえで、エピソードごと、あるいは前編、続編、リメイクなどに伴って変更が生じる際に、絶対に変更しない要素を予め設定しておくことが重要となります。
また、The Moodstersの上記アイデアのように、具体的な「表現」とはいえず著作権で保護されない「アイデア」にとどまるものであっても、秘密保持契約を締結し、無断で盗用することを契約で禁止することも、実務上よく行われる有効な手段です(例えば、コンテンツの企画・制作会社に原案、原作等として自分の作品をプレゼンする場合など)。
これらの点は、アニメーション映画はもちろん、VTuberのアバターなどのAR/VRコンテンツに関連して自分のキャラクターを守るために参考になります。本稿がお役に立てば幸いです。
※この記事は、関真也弁護士のnoteに2020年4月29日付けで掲載した記事を一部更新し、転載したものです。