【キーワード】
米国 著作権 分離可能性 依拠(アクセス/実質的類似性) Star Athletica合衆国最高裁判決 コスチュームデザイン コスプレ ファッションロー
本判決:Diamond Collection, LLC v. Underwraps Costume Corporation, No. 17-cv-0061, 2019 WL 347503, 2019 Copr.L.Dec. P 31,399 (E.D.N.Y. Jan. 22, 2019).
【事案の概要】
原告Diamond Collection, LLC(以下 “Diamond”)及び被告Underwraps Costume Corporation(以下”Underwraps”) は、いずれもハロウィーン衣装を販売している。
2016年12月、両社はある展示会に参加した。Underwrapsは、Diamondが配布するカタログがUnderwrapsのものと類似しており、また、当該カタログに掲載された衣装がUnderwrapsの衣装に類似していると考えた(後掲各EXHIBITの画像を参照。各画像は本判決より)。
Diamondは、2017年1月、DiamondがUnderwrapsの知的財産権を侵害していないことを確認する判決を求め、訴えを提起した。これに対し、Underwrapsは、著作権侵害等を主張して反訴を提起した。
本件は、カタログ及び衣装に係る著作権侵害及びトレードドレス侵害の主張に関するものであるが、以下、衣装に係る著作権侵害に関する裁判所の判断を紹介する。
なお、Underwrapsの衣装が “useful article[s]”(実用品)であることに争いはない。よって本件の争点は、①Underwrapsの衣装のデザインが著作権によって保護されるか否か(分離可能性の有無)、並びに②かかるデザインがDiamondの衣装のデザインにおいて模倣 (copy) されたか否か(アクセス及び実質的類似性の有無)である。
【本判決の判断】
「Star Athletica事件合衆国最高裁判決の二段階テストを適用し、当裁判所は、Underwrapsの衣装はそれらの実用な基本的構成から分離することができるデザイン要素を有していると判断する。」
「まず、『厄介なものではない』とされる第一段階で検討するのは、裁判所が、『絵画、図形又は彫刻の属性を備えたものと看取される何らかの平面的又は立体的な要素を見出す』ことができるか否かである (Star Athletica, 137 S. Ct. at 1010)。例えば、
(1) 死者の日 (Dia de los Muertos) の衣装には、たしかな図形的かつ芸術的な属性を備えたフリルや蝶ネクタイがある [EXHIBIT B-1参照]。
(2) レースポンチョには、図形的なスケルトンパターンがある [EXHIBIT D-1参照]。
(3) Evil Harlequinの衣装は、ダイヤモンド柄の中に配置された悪辣な見かけの道化師の模様を備えている [EXHIBIT G-1参照]。
(4) Underworldの衣装は、燃えさかる炎から立ち上がる骸骨の図形を備えている [EXHIBIT H-1参照]。」「第二段階では、これらの特徴全てにつき、当該衣装から取り除くことができるものであるかを検討する。当該特徴の『主要な目的は・・・芸術性にある。すなわち、ひとたび [当該特徴が] 取り除かれたときに残るのは、機能的ではあるが、装飾のない [衣料品] である 」。「したがって、これらの要素は保護対象となる。そこで当裁判所は、それらが模倣されたか否かを次に検討する。」
「当裁判所は、単にUnderwrapsがそのカタログを配布していたと述べるのみでは、(かかる主張が、Diamondが問題の作品を世に出す前にUnderwrapsのカタログを見たことを示唆するものだとしても)アクセスを十分に主張したとはいえないものの、[Underwraps]にとって最も有利に評価すれば、[Diamondの」デザインは、[Underwrapsの]作品中の保護される要素に著しく類似しているということができると判断する(引用省略)。」
「『問題の作品が、独立に創作されたという可能性を排除するほどに著しく類似している場合には、アクセスの立証がなくとも、模倣を証明することができる」(引用省略)から、当裁判所は、Underwrapsが、著作権侵害に係る反訴を尤もらしく主張したと認める。」
【ちょっとしたコメント】
米国著作権法は、「絵画、図形及び彫刻の著作物」(平面的及び立体的な純粋美術、グラフィック・アート、応用美術、写真、版画、美術複製、地図、地球儀、海図、図表、模型及び技術図面(建築設計図を含む。)を含み、また、構造的又は実用的側面ではなく、形状に関する限り、美術工芸の著作物を含む。)を保護対象とする(102条(a)(5)、101条)。
しかし、「実用品のデザイン」は、それ自体としては保護されず、当該実用品の「実用面と別個に識別することができ、かつ、独立して存在し得る絵画、図形又は彫刻の特徴を有する場合にのみ、その限度において、絵画、図形又は彫刻の著作物として扱」われ、著作権による保護を受ける適格性を有する(101条)。ここにいう「実用品」とは、「単に物品の外観を表し又は法を伝えること以外に、本来的に実用的機能を有する物品」のことをいい、「通常実用品の一部分である物品」は、「実用品」とみなされる(同条)。そして、実用品の「実用面と別個に識別することができ、かつ、独立して存在し得る絵画、図形又は彫刻の特徴を有する」か否かという問題を、一般に、分離可能性 (separability) と呼ぶ。
分離可能性については、1976条の現行米国著作権法の成立以来、長らく判断手法の統一を見なかったが、2017年3月、Star Athletica事件において、合衆国最高裁判決が初めてこれに関する判断を示した。
本判決は、衣服(ハロウィーンコスチューム)のデザインについて、Star Athletica事件合衆国最高裁判決が示した判断手法に沿って分離可能性を判断し、これを肯定した事例である。
本判決は、分離可能性判断における第一段階の検討で述べているとおり、「図形」及び「模様」という、実用品の表面に施される平面的なデザインについて判断した事例である。Star Athletica事件を含めて、平面的なデザインについては従来から分離可能性が認められやすい傾向にあり、本判決もこれに沿ったものといえる。
もっとも、Star Athletica事件最高裁判決が示した判断基準の具体的な適用の在り方については、未だ不透明なところがある。
例えば、同最高裁判決は、「分離可能性に関する審理において焦点を当てるべきなのは、抽出された特徴であって、仮想的な抽出を行った後に残存する、当該実用品の側面ではない。・・・法は、その分離された特徴が、それ自体で、実用的ではない、絵画、図形又は彫刻の著作物に該当することを要求している」と述べている。しかし、本判決は、前述のとおり、第二段階の検討において「ひとたび [当該特徴が] 取り除かれたときに残るのは、機能的ではあるが、装飾のない [衣料品] である 」と述べ、これを理由に分離可能性を認めている。これについては、仮想的な抽出を行った後に残存するものに着目して分離可能性を判断したのであって、本来焦点を当てるべき「抽出された特徴」に対する評価を示していないのではないかという疑いが残る。判断手法のより一層の明確化が求められる。
【私的なご参考文献】
①関 真也「米国知的財産法によるファッション・デザイン保護の現状と課題 (1)(2)」 日本国際知的財産保護協会月報 (AIPPI) 62巻1号6頁 (2017年1月)・同2号149頁 (2017年2月)
②関 真也「Athletica事件合衆国最高裁判決:実用品のデザインに用いられる美術的特徴が保護適格性を有するか否か(分離可能性)を判断する基準~日本の著作権法における応用美術の保護への示唆~」 日本国際知的財産保護協会月報 (AIPPI) 62巻9号838頁 (2017年9月)
③関 真也「ファッションデザインの『美的特性』と『表現上の本質的な特徴』の探究-著作権法による保護の可否と範囲-」 感性工学17巻2号53頁 (2019年6月)
④角田政芳=関真也=内田剛「ファッションロー〔第2版〕」(勁草書房、2023年)
※ Star Athletica事件合衆国最高裁判決前の米国の状況については、上記①をご参照下さい。
※ 同最高裁判決については、上記②をご参照下さい。
※ 同最高裁判決を踏まえた日本の著作権に基づく保護に関する検討については、上記③をご参照下さい。
※ 全体状況については、上記④をご参照下さい。
※この記事は、関真也弁護士のnoteに2020年4月15日付けで掲載した記事を一部更新し、転載したものです。
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《関連する弊所所属弁護士の著書》
角田政芳=関真也=内田剛「ファッションロー〔第2版〕」(勁草書房、2023年)