研究・情報発信

【キーワード】

米国 商標 トレードドレス 色彩商標 登録可能性 使用による識別力 パッケージデザイン

【事案の概要】

Forney Industries, Inc.(以下 “Forney”) は、溶接器具、機械加工器具等を指定商品として、下記商標(画像は本判決より。以下 “本件商標”)の登録出願をした (Application No.: 86/269,096)。

なお、Forneyは、本件商標につき、使用による識別力の獲得を証明することを要することなく登録することのみを求めた。

IN RE FORNEY INDUSTRIES, INC.(本件商標)

Forneyによれば、本件商標は、赤色から黄色に変化し、上端付近に黒色のバナーを備えた複数の色彩から成る標章であって、商品のパッケージに用いられるものである。

また、点線は、“packer backing card”(販売等に際してForneyの商品を載せる厚紙)上の当該標章の配置を表すものにすぎない。

Forneyは、本件商標を、例えば次のように使用している(画像はいずれも本審決より)。

IN RE FORNEY INDUSTRIES, INC.使用見本1

IN RE FORNEY INDUSTRIES, INC.使用見本2

IN RE FORNEY INDUSTRIES, INC.使用見本3

【本審決の判断】

米国商標審判部 (TTAB) は、本件商標は商品パッケージに係るトレードドレスであり、本来的に識別力がある(使用による識別力の獲得を立証することを要せずに登録可能である)とのForneyの主張に対し、概ね次のように述べ、本件商標は商品パッケージに用いられる複数の色彩から成る商標であると判断した。

  1. 本件商標は、その図面及び説明により、商品パッケージにおける商標の配置を示すドット又は破線で囲まれたものとして特定されている。
  2. 商品パッケージの具体的な形状は、本件商標の構成に含まれていない。出願人は、本件商標を、「“packer backing card”(販売等に際して出願人の商品を載せる厚紙)に用いられる色彩」とのみ特定しており、使用見本においても、本件商標が、大きく異なる形状となって表示されていることが分かる。

その上で、本審決は、「商品パッケージに用いられる複数の色彩から成る色彩商標は、本来的に識別力を有するものとはなり得ない」と述べ、本件商標の登録拒絶査定を支持した。

【本判決の判断】

TTABの判断は、次の2つの点において誤っている。

  1. 商品デザインと商品パッケージを区別することなく、色彩によるトレードドレスは本来的に識別力があるとは認められ得ないとした点
  2. 色彩を用いた商品パッケージは、明確に定義された周囲の形状又は境界と関連付けられていない場合には、本来的に識別力があるとは認められ得ないとした点

次のとおり、商品パッケージに用いられる複数の色彩から成る商標が本来的に識別力を有するか否かについて明確に判断した合衆国最高裁判例はない。

  1. Two Pesos事件合衆国最高裁判決は、単に「トレードドレスは本来的に識別力を有し得る」と述べたに過ぎない (Two Pesos, Inc. v. Taco Cabana, Inc., 505 U.S. 763 (1992))。
  2. Qualitex事件合衆国最高裁判決は、色彩のみから成る標章をトレードドレスとして使用することを「絶対的に妨げるルールは存在しない」、「色彩が『セカンダリーミーニング』を獲得したことによって特定のブランドを特定し識別する(したがってその『出所』を表示する)場合において、色彩のみから成る標章をトレードドレスとして使用できることに反対する明らかな理論的根拠」は見出し得ないと述べているが、使用による識別力の獲得を証明しない限り、色彩のみから成るトレードドレスが保護されないと明確に判示したわけではない (Qualitex Co. v. Jacobson Products Co., 514 U.S. 159 (1995))。
  3. Wal-Mart事件合衆国最高裁判決は、商品デザインに係るトレードドレスに関する事案において、トレードドレスを商品デザインと商品パッケージに分け、「商品デザインは、ほぼ常に、出所表示以外の目的を果たしている」と述べた上で、その「色彩などのデザインは、本来的に識別力があるとはいえない」と述べている一方、商品パッケージに係るトレードドレスについては、「一定の商品パッケージに本来的識別性が認められるのは、(商品を)独特のパッケージに包装する目的が、ほとんどの場合、まさに当該商品の出所を識別することにあるという事実に由来する」ことに言及し、さらに、商品パッケージにつき、「通常、出所を表示するものとして消費者に受け取られる」ものであるとも述べている (Wal-Mart Stores, Inc. v. Samara Brothers, Inc., 529 U.S. 205 (2000))。

本件商標は、「徐々に赤色から黄色に薄まっていく色彩から成り、そのグラデーションの端に水平の黒色の帯を備えたものである。かかる標章が、消費者によって、そのパッケージに入っている商品の出所を示唆するものとして理解されることはあり得ることである。したがって、TTABは、『色彩のみから成る標章は本来的に識別力を有し得ない』と包括的に判示するのではなく(審決*7頁)、Forneyの商標が本来的識別性に関する当裁判所の基準を満たすか否かを検討するべきであった。

「トレードドレスの本来的識別性を判断するに当たっては、当該トレードドレスが、それが特定の出所と関係があると消費者が理解するような『印象を消費者に対して与える』か否かが問題となる。」「TTABは、かかる問題につき、次の諸要素を勘案しなければならない:(1) 当該トレードドレスが『ありふれた』基本的な形状若しくはデザインであるか否か; (2) それが当該特定の分野において固有若しくは独特なものであるか否か; (3) それが、公衆から見て、当該商品の外観又は装飾として、その種の商品の装飾に関して一般に採用された周知の形態の単なる改良にすぎないものであるか否か; 又は、本件においては当てはまらないが、(4) 付随する文字から離れて商業的な印象を生じさせるものであるか否か。」

「Forneyは、赤色、黄色及び黒色という色彩の使用を専占しようとしているのではなく、具体的なデザインとして配置された、これらの色彩の特定の組合せのみに関する保護を求めているのである。・・・TTABが判断を示すべき問題は、その商品パッケージに使用されている態様において、当該色彩の組合せ及びそれらの色彩が作り出すデザインが、当該パッケージに包装される商品の出所を十分に表示するものであるか否かである。そして、TTABは、その用いられた色彩及びそれらの色彩が作り出す模様の双方によって生み出される全体的な印象に基づいて、当該問題を評価しなければならない。

当裁判所は、複数の色彩から成る商品パッケージが本来的に識別力を有するものとは認められ得ないと述べた点で、TTABの判断に誤りがあると結論する。また、TTABの審決は、複数の色彩から成る商標が本来的に識別力を有すると認められるためには、特定の周辺的な形状と関連付けられなければならないことを示唆する限りにおいて、この点においても誤りである。よって、当裁判所は、クレームされた構成全体によって生み出される印象を考慮し、〔前述(1)~(4)の判断要素のもとで〕Forneyの出願商標が、その意図された使用に関して、本来的に識別力を有するか否かを判断するために、本審決を破棄し、TTABに差し戻す。」

【ちょっとしたコメント】

複数の色彩の組合せから成る商標について、使用による識別力の獲得を立証することなく登録することができる可能性があることを示した判決である。もっとも、本件商標が、本来的に識別力があり登録できるものであるかどうかは、本判決では判断されていない。

前掲の使用見本に示されるように、本件商標は、色彩のグラデーションのピッチ、形状等の具体的使用態様が、各使用場面において異なる。このような色彩の組合せの商標登録について使用による識別力の獲得が要求された場合、これを立証することは困難であることが予想される。したがって、このような使用態様がとられている色彩の組合せの保護が認められやすくなるという点では、使用による識別力の獲得の立証を要することなく登録を受けられる可能性を示唆する本判決の意義は大きい。

※この記事は、関真也弁護士のnoteに2020年4月12日付けで掲載した記事を転載したものです。

この記事の著者について
日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

関 真也 Masaya Seki

エンタテインメント分野、ファッション分野、先端テクノロジー分野の知財法務に力を入れている弁護士です。漫画・アニメ・映画・ゲーム・音楽・キャラクターなどのコンテンツビジネス、タレント・YouTuber・インフルエンサーなどの芸能関係やアパレル企業・デザイナー・流通・モデルなどのファッション関係に加え、最近はXR(VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、人工知能(AI)、NFT、eSports、デジタルファッションなどに力を入れ、各種法律業務に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。経済産業省「Web3.0 時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経済産業省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員など官公庁の役職を務めルールメイキングに関わるほか、XRコンソーシアム監事、日本商標協会理事、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会⻑などを務めており、これらの活動を通じ、これら業界の法制度や倫理的課題の解決に向けた研究・教育・政策提言も行っており、これら専門性の高い分野における法整備や業界動向などの最新情報に基づいた法的アドバイスを提供できることが強みです。

主な著書 「ビジネスのためのメタバース入門〜メタバース・リアル・オンラインの選択と法実務」(共編著、商事法務、2023年)、「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ファッションロー」(勁草書房、2017年)など

使用言語 日本語・英語